シリーズ家を建てるその3。
コンセプトは、
を目指しています。
今回はなぜ新築の図面作成の段階からユニバーサルデザインの視点を入れて間取りを考えることが大切なのか自分の考えをお伝えします。
訪問看護ステーションでリハビリ職として働いている経験からこのような考えに行きつきました。
その経験を踏まえてお伝え出来たらと思います。
(今回は前回のこだわりポイントの続きで各部屋のこだわりポイントを記事にする予定でしたが、先にこちらを説明した方が分かりやすいと思い順番を変えました。)
これから家づくりをする人、特に長く住みたい、人生の最期まで大好きな我が家で過ごしたいと考えている人の参考になれば幸いです。
まえおき
お伝えしたい対象者
想定している年齢層は20代~30代の若者を中心にお伝えします。
また、注文住宅を検討中で、数年住んだら売り抜こうと思っている人ではなく、生涯その家で生活をしたいと思っている人を対象にお伝えします。
第二の人生として夫婦のみでバリアフリーの住宅を建てたいと思っている人も参考になるとは思いますが、あくまで若い人に向けて話します。
「老後は施設(障がいを持ったら施設)」と初めから割り切って、ローコスト住宅でとにかくイニシャルコストを下げることを考えている方はあまり参考にならないかもしれません。
バリアフリー、ユニバーサルデザインについての否定的な意見
①「ユニバーサルデザイン(バリアフリー)にすると高くつく」
②「”今”が住みづらくなる」
③「車椅子が一生涯で必要になる確率が低すぎる」
というような理由から新築当初からユニバーサルデザインを否定する意見を見かけます。
①に関してはその通りかと思います。どうしても高額になりやすいです。
トイレや廊下幅を広くすればそれだけ坪数が増えますし、有効開口幅が広い建具も値段が高いことがあります。
上り框の段差をなくす工夫なども、一般的な工務店では費用の増額を迫られることがあるかもしれません。
ただ、費用をできるだけ変えずに配置の工夫などだけでユニバーサルデザインを取り入れることも可能です。そのためには将来必要になった時のことを設計段階からていねいに考えておくことが重要です。
②に関してはユニバーサルデザインの意味(すべての人のためのデザイン)からするとそんなことはないですが、バリアフリーの観点から洗面台を低く設定したり上り框を無くすなど現在の状況では使いづらい設定もあるかもしれません。
私は無理に今からバリアフリーにして住むことを推奨したいのではなく、無理なく住みやすいユニバーサルデザインを推奨したいです。
③確かにそうでしょう。ネットで検索すると一生涯で車椅子生活になる方の確率は6%とのことです。17人に一人という計算ですね。「そうなったら施設入所」と簡単に我が家を諦められる人は良いと思います。この6%という数字を大きいとみるか小さいとみるかは人それぞれです。この6%のために多くの代償を払うならそれは考える余地がありますが、軽微な労力やお金で済むなら考えておくことに越したことはないと思います。
私の考えとしてお伝えしたいポイントは、「初めから車椅子で住める設定にする」というわけではなく、「そういう環境が必要になったときに困らない設定をはじめから考えておく」ということです。
いざという時に介護保険で保証されている上限20万円の住宅改修費用やちょっとした工夫・リフォームでこれまでの生活と大きく変わることなく自宅での生活が続けられるように、注文住宅の計画段階から間取りや建具などを考える際に考慮してもらえると良いのではという考えです。
これまでの生活を続けられなくなる理由
高齢者や障がいをお持ちの方々のご自宅や施設へ訪問してみて
訪問看護ステーションのリハビリ職として勤務して7年。前職は市役所で働いていてその時も高齢者のご自宅へ訪問していました。かれこれ9年ほど高齢者や障がいをお持ちの方のところへ訪問しています。
車椅子の方もいらっしゃれば、なんとか伝い歩きをしている方、移動手段はいざり(座ったままちょっとずつお尻をずらす)という方もいらっしゃいます。
ご家族の介助のもと生活されている方もいれば、在宅サービスを利用して独居生活を満喫している人もいらっしゃいます。
色々な方がいらっしゃいますが、ご自宅という環境での生活での困ったことや良かったことなどご利用者様を通して知ることができ、どういうご家庭の環境だと住みやすく、どういう環境だと我慢が多い状態なのかということも見えてきました。
また、ご自宅だけでなく施設へも訪問しています。施設入所者は年々大きく増加しています。
政策が病院から在宅へと退院を促していることが影響していますが、ここでいう在宅とは施設を含んでいます。ご自宅と違い、介助者が居て、環境が整備されていて、とても住みやすいというメリットがある反面、施設のルールがあり好きなことができない、自分ひとりの時間を楽しめない、家族や友人と会えないなどの生きづらさもあります。コロナ禍における現在はよりそれが強まっています。
やはり、ご自宅で生活されている方の方が幸せそうな方が多い印象です。もちろん一概には言えません。施設でも幸せに過ごされている方もいらっしゃいます。施設によるところも大きいです(施設もピンキリです)。ですが、相対的にみるとやはりご自宅で生活されている方の方が「生活の質」が高い印象です。
一旦施設入所すると・・・
お怪我やご病気をされて入院、回復されたがまだリハビリが必要なので老健(老人保健施設)へ一旦入所して自宅を目指す。
こういったケースは良くあります。一旦老健に入所してから自宅へ復帰する率(在宅復帰率)は20%と言われています。
ご自宅へ復帰できない理由に、「介護力が足らない」「環境が整わない」などがありますが、中でも悲しいことですが家族が「本人が居ない生活に慣れてしまう」ということがあります。
本人の部屋が物置になってしまったり、ご家族の生活サイクルに「介護」を入れられなくなってしまうというケースが少なくありません。(介護サービスを使えば在宅復帰可能なケースでも家族の気持ちが協力的でないと家族の判断で施設入所になりやすいです。本人も家族の為に諦めることが多いです。)在宅復帰に時間がかかればかかるほどこの現象は進んでいきます。
これは施設入所に限らず長期入院でも言える事です。入院の大きなデメリットです。
病気になってもご自宅で生活したかったら施設入所はなるべく選択肢に入れずに、ご自宅で受けられるリハビリを活用しつつ、(早期に退院し)退院時から在宅復帰を目指す必要があると感じています。(あと、家族との良好な関係を築く努力も大事)
自宅に居られなくなる理由、元の寝室で寝ることができなくなる理由(環境面)
かなり脱線しましたが、自宅に戻れなくなる、自宅に居られなくなる理由、また元々の生活と寝室からガラッと変わってしまう理由について、これまでの経験から家の環境に絞って考えていきます。改修する場合に必要になる費用についても目安を記載しておきます。
安全に出入りできるところがない
車椅子で自宅内に入ったり出たりができる幅のある玄関や掃き出し窓が必要です。
福祉用具に簡易スロープや電動昇降台もあるので、介護力があれば高さは意外と問題になりにくく、昇降台を置ける位置に開口幅800㎜ほどの掃き出し窓があれば大丈夫ですので多くの場合は乗り切れるところです。
幅のある出入り口がない場合は玄関ドアの改修などのリフォームが必要になります(40万円ほど)。
廊下が狭い
廊下幅が900mm以下の車椅子が角を曲がれない幅だと難しくなります。(角がなければ750mmほど)
特に、寝室などの居住スペースと出入りするところを繋ぐ廊下が狭いと厳しくなります。
かんたんな改修は難しいポイントです(改修すると100万~150万円)。
ただ、広いリビングを寝室にし、リビングの掃き出し窓から出入りし、トイレはポータブルトイレをベッド脇に置くことで生活はできます。そのような設定で退院してくる方は少なくないです。
これまでの生活とガラッと変わるポイントです。
トイレが狭い
トイレが狭くて車椅子や歩行器が入らないことは良くあります。
車椅子は入ることができても介助者が入ることができないことも良くあります。
逆にトイレが広かったおかげで車椅子を自走して介助の必要がなくトイレができるケースもあります。
1坪ほどあって初めて介助者も入ることができ、室内で方向転換もできます。
狭いトイレもリフォームで広くすることもできます(40万~50万円ほど)。そのため建てる段階からどっちの方向に広くするかを考えておくことも大切です。
ただ、トイレを広くするリフォームよりポータブルトイレを使う方が安く手っ取り早いので、本人の希望というより家族の希望(金銭的な理由)で寝室にポータブルトイレを置く方が多い印象です。
なので、「ポータブルトイレは嫌だな」、「死ぬまで普通トイレに行きたいな」と思う人はトイレ一坪の設定は悪くない選択だと思っています。掃除はしやすいですし、広めの使いやすい洗面台も置けます。
段差が多い、居住スペースが2階
敷居などに段差があり、車椅子や歩行器が通ることが難しいことがあります。
これも福祉用具のスロープを使えば解消できますが、自走は制限されることがあり、移動に介助が必要になるケースもあります。改修で取り除くこともできます(2~15万円ほど)。
ほかにも、居住スペースが基本2階(1階はガレージなど)でエレベーター無しというケースなどもあります。(ホームエレベーターを設置する場合、初期費用:330万~580万円、ランニングコスト(1年辺り):7~9万円)
まとめると、、、
これまでの生活を続けられない理由の全ては「車椅子(もしくは歩行器)でこれまでと同じ生活ができない」というところへ行きつきます。
「歩ける」って大事です。足腰大事に鍛えましょう。フレイル(自立や健康を障害されやすい虚弱な状態)予防の観点から言えば筋力の低下が始まる40歳前後から鍛え始める必要があります。
「後から改修すればいい」はお金がめちゃくちゃかかります。介護保険で受けられる住宅改修の上限20万円の補助なんてあっという間です。その20万円は上り框やトイレに手すりをつける用と考えておいた方が良いでしょう。
介護力とお金
家の環境について話してきましたが、自宅に帰れない一番の理由は何と言っても「介護力」です。
「家族に迷惑をかけたくないからおとなしく施設に入る」と考えている方も多いでしょう。
ただ、今は在宅サービスはとても多岐にわたっています。
サービスをたくさん使って車椅子で独居で暮らす人もいらっしゃいます。
そのためには費用がかかります。だからこそ新築の段階からリフォームのことまで考えてトータルコストを安くする必要があります。
もちろん施設に入るのもお金がかかるので、金銭面で自宅生活を送る為には以下の式が成り立ちます。
施設入所に関わる費用 > 在宅サービス費用+リフォーム工事代金
そうなってくると、大規模なリフォームはしにくくなりますね。
トイレを改修せずポータブルトイレを使用したり、リビングで寝起きすることになりやすいです(それが嫌なら施設入所を検討という流れに)。
しかし、安い入居施設(特別養護老人ホームなど)は要介護3以上の制限があり、なおかつ基本的に待ちの状態。金銭的に在宅を選択せずにいられない場合も多いです。
家にはいられますが、大々的にリフォームできないと住みずらい状態のまま過ごすことになりかねません。
お金って大事です。建てた家によってはメンテナンスコストやリフォームコストがかなりかかるため、2000万円問題もあながち大げさじゃありません。(家を建てる②でもお伝えしましたが、トータルコストの考え方はとても大事です。)
大規模なリフォームをすることなく、最低限のリフォームでこれまでとあまり変わらない生活を続けられるユニバーサルデザインを新築の図面作成当初から考えるべきと思うのがここにあります。
ここだけは初めから考慮するべきポイント
以上を踏まえると以下のポイントは初めから考慮しておくべきと考えます。
自宅への出入り
車椅子になったときに出入りする場所をあらかじめ考えておくことが重要です。
玄関にスロープをかけることもできますが、玄関外のアプローチ次第なところもあり、スロープを設置する場合の事もあらかじめ考えておくのも大切です。
自力でスロープを上がろうと思ったら1/12の傾斜にする必要があります。
上り框がなくても良い人はフラットにするのも良いです。(上り框がないことのデメリットは座って脱ぎ履きするためには椅子が必要なことと、ホールに汚れが入ってきやすいことなど。)
廊下
まずなるべく廊下は無くす方が有効な敷地面積を広げる意味でも重要です。
その上で、車椅子になったときに通る動線を考えておくことが大切です。
もちろん自宅内全てを車椅子で移動できる設定が望ましいですが予算との図面との兼ね合いもあると思います。
自宅の出入りする場所が想定できたら、次は寝室を想定します。またトイレの場所も考慮します。
そうすると基本的な動線が見えてきます。浴室や洗面所なども考慮の対象です。
動線になると想定できたところの廊下幅は最低でも750㎜は確保してください(900㎜あればストレスなく移動できます)。
トイレ
欲を言えば正方形で一坪確保するのが良いですが、他のお部屋の配置や形状的にトイレの大きさは制限を受けると思います。車椅子で入ることができ便座に移れるようにするための設定は色々とあります。
「トイレ 車椅子 大きさ」でGoogle画像検索すると色々と図面が出てきますのでそこでご自宅の設定に合いそうなものを探すのも良いと思います。
後々トイレを広く改修するのであればどちらの方向に改修するのかを考えておくことをお勧めします。
浴室など動かせないものが隣にあると改修工事自体が出来ないこともあります。
トイレの場所は寝室に近いところが大切です。
車椅子の方じゃなくてもトイレから寝室が遠いという理由で寝室を引っ越される方が多いです。
ドア関係
800㎜ほど確保できると車椅子で難なく動けます。
まっすぐ入るだけであれば車椅子の幅(最大で700mm)+手の分で750mmあれば良いかと思います。
トイレなどドアの先が狭くてすぐに曲がりたいとなると広めにとっておく必要があります。
動線になるところについては敷居がない上吊り式の引き戸が良いでしょう。開き戸は使い勝手が悪いです。
寝室
ベッドの周囲は介助者も入ることができるような設定が望ましいです。
車椅子に移るとき、ベッドに移るとき、オムツを変えるときに介助が必要になることが多いからです。寝たきり状態になると2名での介助も必要なることがあるのでベッドの両側から介助者が入れるとかなり介護しやすいです。
介護が必要になる病気筆頭の脳血管障害(脳梗塞や脳出血)では右か左の手足が効かなくなります。
どっち側の麻痺かによってベッドの乗り移りの方向が変わってきます。
狭い部屋ではドアの位置や掃き出し窓の位置、押し入れの位置などによって臨機応変にベッドの位置を変えられないことが予想されますので、車椅子になったときに寝室になる予定の部屋については最低でも6畳以上の広めの部屋が良いと思います。
元の寝室が狭いということもリビングが寝室になりやすい理由の一つです。
まとめ
今回はユニバーサルデザインを新築当初の図面作成段階から考慮することの大切さについてお伝えいたしました。
この介護・医療の世界にいると病気になったり老化現象によって体が不自由になることは他人ごとではなく、自分もそうなるだろうなとつくづく思います。
一般の若い方はそんなことは遠い未来のことと感じるのはごく自然ですし、工務店さんハウスメーカーさんも重要視している人は少ないと感じましたのでお伝えしたいと思いました。
工務店さんがそう考えるのも無理はなく、20年、30年仕事をしているベテランさんでも引き渡した家族は若いので高齢者・障がい者になるケースは少ないので重要性を感じません。むしろユニバーサルデザインなんて必要のないケースが多くなるのでベテランさんほど「必要ない」と話されるかもしれません。
ただ、住むのはあなたです。「最期まで自宅で過ごしたい!」なら人生の最晩年になればなるほど直面しやすい問題です。
今回のポイントは私の価値観で、独断と偏見で選んでいます。
「家のお風呂に入ることこそ大事!」という人もいると思います。
「自室で寝起きできればポータブルトイレを使うことは嫌じゃない」という人もいると思います。
私はリビングではなく自室で寝起きし、ポータブルトイレではなく普通のトイレで用を済ましたいです。
入浴は初めからユニバーサルデザインの設定で組むことはイニシャルコストがかかり過ぎること、家族が入浴介助するには負担が大きいことを考えて、訪問入浴やデイサービスなどを使うというふうに割り切りました。
みなさんの中の譲れないポイントを考えて、ユニバーサルデザインの視点を無理のない範囲で図面に入れてみてはいかがでしょうか。
人は必ず死にます。家族も自分も必ず死にます。人生の最期をどう迎えられたら幸せでしょうか。
私は、愛着のある我が家で好きなことやって目一杯生き切れる人生が良いです。人生が短くなっても、長期の入院や施設入所はお断りしたい。設計段階からユニバーサルデザインの視点を入れることはそのための準備だと思っています。
息子のように自宅で家族に見守られながら死にたいです。
書きたいことがいっぱいで長文になってしまいました。ここまで読んでくださりありがとうございます。
この記事がこれから家を建てることをお考えの方のお役に立てていれば幸いです。
次回は要所ごとのこだわったところをご紹介します。
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